21 世紀を目前にし、世界は大変革の波に揉まれている。旧秩序が音を立てて崩れていく中で、世界新秩序のあり方が盛んに議論されてはいるが、その方向さえもいまだ見出されず、多くの矛盾と混乱がいたる所で噴出している。
しかし、人類が切望するところの理想世界のひな形は、自然界の営みのなかに垣間みることができるし、人間の歴史が生み出した優れて創造的な営みにも示されている。
その意味においては、優れた音楽表現を目指す演奏のプロセスも、理想実現を希求するプロセスそのものといえる。なぜならば、そこには、過去・現在・未来という時間軸の中において、真・善・美を見失うことなく、対立する要素 (静と動、個と全体、独立と協調等) の絶妙な両立と調和をはかり、統一された有機体としての最高度のものを生み出そうとする営みがあるからである。
そこで、ここでは、実体験に基づき、ピアノ演奏における様々なコミュニケーションの実態について、多面的に取り上げたい。