環境中に放出された多くの物質の中には野生動物やヒトの発達や内分泌系を撹乱する可能性がある。これらの多くは女性ホルモン受容体に結合して女性ホルモン類似作用を示す。ヒトでは、合成女性ホルモンを流産防止剤としてもちいて、生まれた子供の健康に悪影響があらわれた例がある。実験動物でも周生期に性ホルモンを投与されると、雌雄共に内分泌系、生殖系、免疫系、神経系、骨、筋肉、肝臓に不可逆的な変化が起こることがある。環境中にだされた合成物質にも天然物質にも、女性ホルモン類似作用、抗女性ホルモン作用、抗男性ホルモン作用、甲状腺ホルモン作用、抗甲状腺ホルモン作用により胎児の発生や生殖系を見出す可能性を持つ物質がある。このような物質がヒトの精子数の減少や精巣腫瘍の増加と関連しているという仮説がある。環境中の化学物質が種々の野生動物の内分泌系や性の発達を変化させている原因物質となっているのではないかと考えられている。ホルモン類似物質の世代を越えた影響を解析し、ヒトや野生動物への影響をきちんと評価して問題解決をはからねばならない。環境中のホルモン様物質は猛毒であるというような単純な割り切り方はできない。内分泌かく乱物質問題を通して、環境問題を考える上で何が必要なのかを考えてみたい。