心理療法は,その基盤に他者理解とコミュニケーションを置く。他者理解とは,セラピストがクライエントを理解することである。しかしその理解の仕方は,セラピストという人がクライエントという人を理解するという狭い意味にとどまらない。クライエントの思考及び感情を理解することにとどまらず,あたかもクライエントが面接室全体に広がっているかのように,面接室において生じている現象すべてを理解することも含む。そのようなときにはセラピストである自分自身も理解する主体であると同時に,理解される客体にもなる。さらには,クライエントを取り巻く親子関係や人間関係全体,その人を取り巻く社会,その人が感じる風土や自然までも,クライエントその人の延長であるかのように理解の対象となる。その全体から浮き上がってくるコンテクストやコンステレーションそのものを理解するのである。それゆえにそのような理解は,特殊なコミュニケーションを通して行われる。そのコミュニケーションは意味の伝達はもちろんのこと,互いに影響を与え合う刺激でもあり,互いの考えを戦わせる場でもあり,コミュニケーションそのものがクライエントを元気づけたり守ったりもする。そこに信頼感のようなものが生まれる,相互作用としてのコミュニケーションである。それゆえセラピストのクライエント理解は,クライエントのセラピスト理解とともに進んでいく運命をもっている。当日はそのような問題意識を深めてみたい。