Human Development


第 5 回 発達科学シンポジウム

講演「心拍変動性と人間発達」

武井義明
(神戸大学発達科学部)


概要

安静時における健常者の心臓の拍動は一拍動毎に異なり,心拍変動性と呼ばれている. この心拍変動性は自律神経系障害を合併症に持つ糖尿病患者では減衰し,心臓移植患者では完全に消失する. 心臓は自身の持つ自動性によって拍動している時は正確なリズムを刻むが,自律神経系によって制御されると変動性を生じる. この変動性を周波数解析するとパワースペクトル密度に少なくとも二つのピークが観察されることが知られている. 高周波領域のピークは心臓副交感神経系の活動を,低周波領域は心臓交感神経系活動および心臓副交感神経系活動の相互作用を反映している. また,この心拍変動性には周期振動だけでなく,非周期振動(フラクタル)があることもわかっている. 健常者の安静時の心拍変動性を粗視化スペクトル法によって分析するとそのスペクトル指数はおよそ 1 であり,運動時では増加する. 心拍変動性の周期振動性分は生後増大し,若年者でピークを迎えた後,加齢とともに減少していく. また,心拍変動性の非周期振動性分をスペクトル指数からみてみると生後5ヶ月ほどで成人とほぼ同じ程度の値を示し,高齢者ではその複雑性が消失する. 心拍変動性が生じる詳細なメカニズムについては今だ明らかになっていない. これまでの機能論的唯物論に基づく生理学や制御工学などの学問分野からのアプローチだけでは現象の理解には限界がある.


発達科学シンポジウム 第 5 回

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