Human Development


第 6 回 発達科学シンポジウム

講演

ポストゲノム時代の社会構造

田畑暁生
(神戸大学発達科学部,造形表現論講座)


概要

ポスト・ゲノム社会がどのような社会になるのかは、現段階では不確定な要素が多く、また、われわれがどのような倫理的・制度的な選択を行うかにかかっている。 その中で、遺伝情報の公開の問題と、遺伝子による子供の能力の強化の問題を考えたい。 個人の遺伝情報の公開を当然とする社会になった場合、一方では効率の上昇が期待でき、また犯罪や危険の回避等にも役立つだろう。 他方、遺伝子による差別は、より徹底した形で行われるかもしれない。 また、遺伝子の発現のメカニズムがかなり解明され、例えば、能力の高い子供を遺伝子操作(遺伝子による強化)で作ることが、技術的に可能となり、制度的・倫理的にも受け入れられた場合、一方には人間の画一化の危険があり、他方には社会の二極分化の危険がある。 もし遺伝子操作が安価なら前者の可能性が、高価ならば後者の可能性が高い。 経済的な格差が再生産されるだけでなく、寿命・健康状態の格差が拡大する可能性がある。 遺伝子で強化された階層とそうでない階層との間の対立を回避するには、前者がノーブレス・オブリッジを自発的に果たす、遺伝子強化によって得られるであろう利益に対して課税する、といった方法が考えられる。 あるいは、単に個人の利益でなく、社会的に好ましいとされる資質への操作には奨励金を出すことも考えられる。 その両者の場合、操作されていないで有利な遺伝子を生来持っている階層との間で不平等ではないか、という問題も生じるだろう。


発達科学シンポジウム 第 6 回

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