小 田  ありがとうございました。

三 上  すみません。今のどういう専門、モード1のほうのものを どういうふうに持つかということなんですけれども、これは、大学単独ではでき ません。もう大学入試のやり方も含んだ総合問題になっていますので、むしろそ ういう点で言うと、大学ができること、この問題について大学が優先権を持って 言い得ることは、すごく限定されているということが、1つ言いたいことです。

 それから、大学、大学院も含めて、途中で少し専門をシフトする人に対し て、横移動がすごくやりやすいように準備する必要はある。発達科学部は、そう いう意味では、横滑り大歓迎、横滑り自由という雰囲気を作り出す必要がある。 これがとりあえずはやるべきことだと思うんです。

 もう1つは、それが果たしてモード1と言われるような地位の体系なのか ということについてですが、先生方はそう思っていただいて結構なんですが、で きてくる研究者なり大学院卒業者がそのようになるかどうかは、これはわかりま せん。小林 旭じゃないですけれども、「熱き思い」は、先生の「熱き思い」 と、先生が熱き思いだと言って生徒が動いている「熱き思い」とは全然別かもし れないですね。むしろ僕は、そこにフィクションというもののおもしろさと言い ますか、錯覚や思い違いのおもしろさが出てくると思っているんです。

 多分、今一番大きな問題は、自分が思っている「熱き思い」は必ず弟子に とっても同じ「熱き思い」だという信念は、教師の中にあるわけです。今、名前 が出されましたもう亡くなった3人の「熱き思い」を語った先生たちはみんなそ うだったと思うんです。それだけ「自分の思いは弟子の思いだ」というふうに言 い得るくらいに華々しい研究もなさった方々なんですけれども、結局のところ、 言い方は悪いですけれども3人の大研究者をだしにして、弟子たちは別の生き方 をしてるわけでしょ。私は、ここにずれがあるということを、むしろ肯定して議 論したほうがいいと思います。  大学はもっと、特に国立は、もっと理科系の知識が必要だということを、高等 学校以下のカリキュラムに対して、ある程度注文していくような余裕を持つべき だと思います。現時点で言いますと、卒業生の就職口としてみんな営業に行くし かないわけです。これは、私立が人数が多いとかそういうんじゃなしに、高校、 大学の7年間カリキュラムが、そのように企業に使いつぶされるような人間を作 っているという事実があるわけです。これに対して唯一歯止めができるのは「理 科系の学問も必要です」とはっきり言うことだと僕は思います。

小 田  私個人の感想から言うと、皆さん、僕らの世代のときは、 頭のいいやつはやっぱり理科系なんですよ。特に物理学とかですね、数学に秀で るということは、これはちょっと普通の能力じゃだめだということを思い知らせ てくれるようなやつが周りに、たまたまいたんですけれども、いるとなると、こ れはもう理科系は頭のいいやつ、そうじゃないのはその他というような感覚があ って、私は、今でも思ってるんですよ。だから、物理学者に対してものすごくコ ンプレックス持つんです。そのかわり、物理学者の書いた専門書は読まないけれ ども、物理学者の自伝は大好きで、よく読むんですけれども。

 それから、もう1つは、先ほど25年という話出ましたけれども、だれか 「そんなの長すぎる」ということを言うかと思って待ってたんですけれども、だ れも言わないんで、25年といったら4分の1世紀ですよね。研究者はもうそろ そろくたびれて、老後のことを考えるという、そこまで続くというのは19世紀 の学問じゃないかなという。

 それから、今、組織は、昔は所属する人間よりも組織のほうが長かったん ですね。今の時代は逆なんですね。組織よりも、そこに所属する人間の寿命のほ うが長い時代になってきたと。これは企業でもどこでも。だから、先ほど先生、 10年、20年と言ってましたけれども、5年ごとに学部の改組というのはある のじゃないだろうかというぐらいの感覚が当たり前の時代になってきたかなとい う。そうなってくると、先を見据えてどうのこうのという、どこまで見据えたら いいのかというのがわからないということ。

 それから、ここにいらっしゃる研究者の方たちというのは、みんなそうい う意識があると思うんですけれども、学部のときに受けた教育というのは、すご くその人間のバックグラウンドとして意識するものが強いと思うんですね。まし てや、研究者じゃなくて大学4年間、あるいは6年間で終わって卒業する人にと っては、学部のときの教育で何を受けたかという、何を教えてもらったか、何を 学んだかということが、一生の何か残っていくことになるんじゃいなかなと。

 そういう意味では非常に学部教育というのは重要で、それこそ、発達科学 という学部の中で発達科学ということを学んだという、それで卒業していった学 生にとっては、やっぱり専門は発達科学なんですよね。発達科学の中から将来、 研究者になっていく人たちは、やはり発達科学のバックグラウンドを持っている というようになるような教育システムと、熱い思いですか、というような話にな ったかなと思います。

 他にありませんか。

橋 本  さっきからのお話で、やっぱりどうしても研究のほうに話 がいってしまって、我々学生としては教育のほうに話を、ちょっと話を触れたと ころがあったから、それはよかったんですけれども、初めに専門を学んでから、 それからどんどんすそ野を広げるほうか、先にすそ野を広げといて、頂上をめざ して専門のほうにいくかという話があったんですけれども、専門のほうに最終的 にいくというのが今の自然環境論だと思うんですけれども、多分、中川先生が1 回生とか2回生のときにおっしゃってた話では僕はそう思うんですけれども、確 かに、僕らの経験から言うとそれはそれでよかったんですけれども、その1回生 とか2回生のときには、やっぱり雲をつかんでいる感じで、何やってるのかなと いうか、そういう1つ骨になる部分がちょっとなくて、怖くて、これでいいのか というか、本当にこのままこの学部におって何か得られるものがあるのかと考え たときに、やっぱり僕としては3回生の初めになったときに、これは骨がない と、武器がないと、やっぱり切り口。さっき佐藤先生がおっしゃってたと思いま すけれども、やっぱり自分に何か1つ武器がないと、環境問題に対抗するために は何もできないとも思いました。

 それで、ちょっと化学とかそういうのも1つ何か勉強しようかなと思っ て、今回、環境計量士を受けて、とりあえずは基礎的な学問になるかなと思って 勉強してるんですけれども、やっぱり何か骨がないと怖いというか、1回生、2 回生のときにはそういうように思いました。

 すそ野を広げて勉強するということはやっぱり、中川先生が1回生、2回 生でおっしゃったように、ものに対する見方というのをいかに多く持つかという ことが重要だと思うし、僕はそれすごく賛成で、この学部に入るときも、そうい うつもりで入りました。特に、例えば工学部に入ったら、物理と化学だけとか、 そいいう限定されたものになるだろうし、理学部いったら1つのことしかやんな いだろうけれども、発達科学部のここのコースに入れば、4科目、5科目をまん べんなくやって、とりあえず自分がやりたいやつを見つけられるということで選 んできました。

 文系と理系が共存していると、中川先生がさっきおっしゃったんですけれ ども、学生から見ればもっとシビアに考えてて、やっぱり理系で受験してきた人 間は、今の3回生の学年では多分、やっぱり自分は理系だと考えてて、文系は文 系だと考えてて、はっきり別れていると思うし、やっぱりそこは理系と文系は共 存しているように見えるかもしれませんけれども、やっぱり共存はしてないと思 いますし、教育カリキュラムにけちをつけると、あえて、初め1回生のときの概 論というのはすごく楽しくて、そういった意味ではそこは共存だったかもしれな いけれども、それ以後の2回生、3回生になっていくにつれて、やっぱりそうい うのは収れんされていくというか、理系は理系へ、文系はより文系のほうへ行く というか、収れんされていくという形になっているから、そういった意味では共 存はしてないかなと思います。

 あと、今の人間環境論、人間環境科学科の中で一番僕は成功しているなと 思うのは、やっぱり生活環境論コースだと思うし、そこが一番やっぱり環境とい うふうに見たときに、一番わかりやすいという意味で成功しているなと思いま す。

小 田  ほかに成功しているところはないですか。

橋 本  それなりにみんな成功しているとは思いますけれども、た だ、はたから見て、何か一番形になっているなと思うのは、やっぱり生活で、将 来的にも社会的ニーズにこたえられるのは、あのコースかなとは思うんですけれ ども、僕は自然環境論コースなんで、とりあえずスペシャリストになって環境に 何かできればいいなと思っています。

小 田  はい、どうもありがとうございました。

村 田(自然科学研究科博士課程)  今、自然科学研究科の博士課 程にいます村田といいます。その前は教育学研究科で蛯名先生に指導してもらっ て、大風呂敷の広げ方と、宗教に似た熱き思いをたたき込まれました。

 僕は、蛯名先生には、物理を教えてもらわずに、物理の切り方を教わった んじゃないかなと思ってるんですが、すべてではありませんが。ですから、研究 のときの、物理の切り方で物理でないものも切れるんじゃないかな。ただ、ほか の学問もそういうところはあるんじゃないかなと思うんです。必ずしもその専門 の分野を最初にきちっと修めて、それから、広いところへどこかシフトしていく ということばかりではないような気がするんです。それが1点です。

 それから、今、ちょっと橋本さんの意見のちょっと流れなんですが、先ほ ど、教員の研究分野の横滑りということを言われましたけれども、それと同時に 学生の横滑りも柔軟にできるような形というのが必要じゃないかなというふうに 思います。例えば、理系で入ってきたけれども、文系的な、社会学的な、教養学 的なことも学びたいと思ったときに、それができる、もしかそっちのほうへシフ トしたいといったときにできるような形というのがいるんじゃないかなというの がもう1つです。

 それから、もう1つは、3つ目、申し上げたいんですが、私、中学、高校 の教員を10年近くしておりまして、その立場からちょっと意見を言わせていた だきたいんですが、大学の、特にこの学部の特徴と言いますと、もちろん研究も ある。教育もあるわけですね。教育の特徴を見せるときに、今、いくつか議論が あって、どういう学生を育てるかというのがありました。もちろん、どういう学 生を育てて出すかということも外に対するアピールになるんですけれども、どう いう学生を求めているのかと。だから、どういう学生をほしがっているのかとい う学部のスタンスというか、この学部でこういう形で教育をするからこういう学 生に来てほしい、ということをはっきりと示す必要があるんじゃないかなと思い ます。

 中川先生も入試のときの話をされましたけれども、今までと違う入試制度 というか、神戸大学自体は変わらないけれども、発達科学だけは違う受験をやっ ているぞというような形を見せるというのも、学部の特徴を見せる非常にいい機 会だと思いますので、ぜひ検討していただきたいと思います。以上です。

小 田  はい、ありがとうございます。

中 川  モード1の研究をやってからモード2へという話に戻りな がら、学生の話が抜けているのでという発言が2、3続いたと思うんですけれど も、私もちょうどそういうことを言おうかなと思ってたときでしたので、非常に ありがたかったんですけれども。

 姫工大の理学部というのが新しく発足をしまして、ここと似たような経験 をしています。それは結局、1年生のときに入ってきて、そのときにいろんな分 野でどういうことがハイライトになっているかというのを見るチャンスが必要な んですね。あのハイライトに憧れて、それで、そのためには何が必要かというこ とで、基礎学問をがちがち固めはじめるというようなふうになっている。そうい う教育形態というのは非常に必要だというのはいろんな大学で気づかれて、1年 生の初めに各分野のハイライトを語るというそういう科目をおいている大学は大 分増えてまいりました。ここでは、概論というのがそういう役目をある程度は果 たしていると思うんですけれども、まだ十分じゃありませんので、そういう意味 ではもっとやらなきゃいけないと思うんですけれども、そういうので1つの目標 なり、何だかこのへんがおもしろそうだという、そういうのを語るには格好の場 所ですし、先生方が自分たちの思いを伝えるのも非常にいい場所になるだろうと いうふうに思います。そういう意味ではああいう場所もあれで必要だろうと。

 しかし、私の思いますのは、やはり各分野でいろんな勉強をしながら、3 年生か4年生のところで、何か学科として共通に、何かこれを学んだなあという ような学科の共通科目というのが、3年生ぐらいのところで高い水準でほしいと いうことです。
 要するに、今の横断的、教育組織としての学科としての顔は概論で消えてしま う。3年生のところでもう1科目何か、そういうのがあってしかるべきではない かというふうに私としては思っています。それが第1点。

 第2点、モード1からモード2へというようなことを考えてみますと、私 はこれからの、高校の教育の弊害やなんかもありまして、基礎教育に4年かかる 時代ではないかというふうに思っています。事実、私の研究が講義の中で語れる 機会がありません、学部の時代には。とても語れない。基礎がそこまでいかな い。積み上げられなんです。私のやってる研究をまともに学生が聞くことができ るのはマスターコースです。これはもう致し方ないので、いくら語ってもわかっ てもらえないので、それだけの基礎を養うには4年かかるという時代に、だんだ んこれからなっていくのではないかと。ですから、教養部廃止というのは、教養 部は廃止されたのではなくて、そういう基礎教育の時期が2年から4年に延びた のではないかというふうに、私や私の周りで、ある数の人たちは考えておりま す。

小 田  ありがとうございました。議論が尽きませんし、だんだん おもしろくなってきたなあと思うんですけれども、時間がきてしまいました。あ えてまとめるということはしません。皆さん、それぞれの熱き思いの中でそれぞ れの人がまとめてほしいと思いますが、何らかの形では最終的なとりまとめをし たいと思います。

田 畑(発達科学部造形表現論講座)  一言だけ言わせていただき ます。

 中川先生ですか、今の、教養の時期が2年から4年に延びていいんじゃな いかっていうことに僕は非常に賛成なんですね。

 僕はここにきてまだ1年半なので、ちょっと事情がよくわからなかったこ ともあるんですけれども、何で教養部を廃止したのかと、僕、もったいなくてな らなかったんですよ。僕はむしろ、大学はアメリカ型の、4年間で教養を学ぶと いう形にしていくほうがいいと思っているんですね。佐藤先生のおっしゃること はすごくわかるんですが、それはやはり大学院教育、もしくは研究者を養成する ところで重点的に行う形の教育じゃないかというふうに僕は思ってるんです。そ れで、むしろ必要なのは、もう少し学生さんが自由に授業を選択できるようにし たほうがいいんじゃないかと僕は思うんです。文理共存型というこの発達科学部 の特色を生かすためには、もっと学生さんが、ほかの学部と比べていろんな種類 の先生がいるわけですから、いろんな科目を自由にとるようにすればいいという ふうに僕は考えたいんですね。もちろんそれは、講座をなくせとか、指導教官制 や卒論をなくせということじゃなくて、そういうのはもちろんあっていいんです けれども、もう少し幅広く授業をいろいろとれるように、幅広く勉強するように できたほうがいいんじゃないかなというふうに思います。それは提案です。

 それは、それは文系、理系共存学部、例えば、法学部とか経済学部じゃな いこの発達科学部の特徴になる得るんじゃないかなあというふうに教育面では思 うわけです。

小 田  最後、何か制度化へ向けた具体的な取り組みの提案かなと いう感じもしますけれども。

 まだやりますか。参加されている皆さん次第です。

城  いろいろ有意義な話ということで大変勉強になったんですが、 具体的なプロダクトがあるかなというところでいきますと、残してほしいなと思 うことは、従来は講座でいろいろ本が書かれてますので、これはすごくこの4年 間の中で随分変わってきたことだなと思っています。その内容についてはまだ自 信のないとこ、いっぱいありますけれども、でも、それは成果としてきているん ですね。もうここでは、さっきの話ではないけれども、発達科学、発達の概念と か、そういう時間を軸でするにしてもですね、今度は講座を越えた形の、いわゆ る学部レベルでの本を残してほしいし、そういう形で企画が出れば協力していき たいと思いますので、ぜひ、この中からこういう企画、出ませんでしょうか。

小 田  発達科学シリーズというものを考えてもいいと思います よ。それは何も学部で1冊だけ書かなくてもいいわけですから。ということは考 えられますが。というようなことが提案とされて、じゃあ、来年のこの時期には シリーズが刊行されているというぐらいに、それぞれが変わると。コマーシャル じゃないですけれども「変わらなくちゃ」というところに追い込まれてはじめて ということかもしれませんし、その前に変っちゃってるという人もいるかもしれ ない、わからないですけれども。

 どうも、長時間ありがとうございました。演者の先生方、どうもありがと うございました。最後に平川先生、お願いします。

平 川  どうもありがとうございました。活発で有意義なワークシ ョップがもてたことを、主催者を代表しましてお礼申し上げます。研究推進委員 会としましては、次年度以降も継続テーマとすると同時に、早く動き出さなけれ ばならない課題かと思います。城先生が、4年前にもこういうことを話したとい うことらしいですけれども、これからは文・理融合に向かっての具体的な行動か なという気がしております。

 きょうのワークショップの内容は、テープを起こしまして報告書にしたい と思っておりますので、できましたらきょうのご参加の皆さんには何とか配付し たいと思います。本日はどうもありがとうございました。

蛯 名  ちょっと補足なんですけれども、報告書という話がありま したけれども、ホームページ上に掲載したいと思います。
 それから、きょう、まだ言い足りなかったという人のために、意見が言えるよ うな体制を、できれば作りたいと思いますので、電子メールなり、できれば電子 掲示板を立ち上げまして、そこに意見が書き込めるようなこともちょっと考えて おりますので、今、パンフレットにホームページのアドレスが載ってたと思いま すが、そこを見れば、どうしたらいいかわかるようにするつもりですので、よろ しく乞う御期待ということで。


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