は じ め に

発達科学部長  土屋 基規

 本書は、本学部の研究推進委員会の主催による「発達科学ワークショップ」の報告と討議をまとめたもので、当日の発言がほとんどそのまま記録されています。本学部は、教育学部を改組して1992年10月に発足し、学部の完成年度を迎えるにあたり、1996年10月に学部全体で「発達科学シンポジウム」を開催し、学部理念と教育・研究の現状について構成員が討議を行い、今後の課題を確認するという企画をしたことがありました。

 この度のワークショップは、構成員の自発的な企画提案を受けて研究推進委員会が企画にあたりましたが、「発達科学とは何か」という私たちが探求の課題としていることがらに照らすと、「発達科学シンポジウム」の継続的な企画としての意義をもち、今回は「文系・理系共存型学部における教育・研究のあり方をさぐる」という本学部の教育と研究の内容に焦点をあてて問題を考えようとするものでした。

 こうした企画のねらいと趣旨は、事前に明らかにされこの報告書にも示されていますが、そこで述べられていることは、本学部の構成員だけではなく、最近の大学改革について社会に広く存在する問題意識と共通するところがあると思います。本学部は、このワークショップの企画直後に、科学技術庁の科学技術政策研究所の調査研究グループから、「高等教育機関における『文理融合』に関する調査研究」のインタビューを受けました。この調査は、環境問題や高齢化問題など最近の社会問題の解決は、様々な要因が複雑に絡み合った難しいものとなっていて、各専門分野の専門家による共同研究や一つの専門分野の領域にとらわれない幅広い視野をもった人材の養成等が必要であるが、最近の日本の大学は専門化が進むとともに、「文理融合・総合型」の学際的な学部が増加しているので、こうした新設学部の実態と傾向を調査し、新たな科学技術の人材開拓の領域となりうるかどうかを探る、ということを目的にしたものです。

 本学部のワークショップと科学技術庁からの調査は偶然にも時期が重なりましたが、新学部への問題意識を共有するところがあるようです。本学部のワークショップでは、この報告書にあるように、「発達科学とは何か」、文理融合・総合型の学部の教育・研究の可能性と課題について、報告と討議がかわされています。そこでは、共同研究のテーマ、課題の設定、共同研究への意識と組織、そこで養成される人材などについて、多様な意見が表明されています。このワークショップでの報告と討議を通じて発酵しつつある問題意識を学部構成員が共有し、具体的な課題研究やプロジェクト研究に組織していくことが、学部全体で負うべき問題であることを、あらためて痛感しています。

 そうした課題の設定は、研究者個人の主体的な意欲に支えられることが必要であるとともに、それが主観的な興味や関心に終始することなく、課題のもつ学術的、社会的な意義と養成を十分に意識したものであるべきことは言うまでもありません。その意味では、私たちの取り組みはまだまだ初歩的であり、多くの乗り越えるべきことがらがあることを確認することが大切だと思います。この報告書が、今後のそうした課題への挑戦に弾みをつけるものになることを願いつつ、今回の企画を推進されたすべての方に感謝してます。


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