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障害者をめぐる社会的課題解決に向けた活動研究成果を社会還元するという意味での社会貢献をするには、まだまだ学問も足りないし人間もできていないと自省する。私の研究スタイルがそもそも、具体的な人間を相手にして、すっきりと割り切ることのできないさまざまな問題を一緒に考えていくというタイプのものである。そうした協働的な足掻きが結果的に社会貢献になっているかもしれないという程度のものである。 多くの知的障害のある成人が生涯を住み慣れたまちで暮らしていくことができるようになるためには、さまざまな条件が不足している。社会福祉制度に基づくサービスの不足や不備はもちろんだが、そればかりでなく、本人がどのような生き方をしたいかということを考えたり表明したりする機会の不足、周囲の人々や社会による理解やインフォーマルな支援の不足がある。私が取り組んでいるのは、こうしたいわゆる社会福祉の制度の枠外にあるような課題である。
まず本人が自分たちのことを立ち止まって考える場の支援をめぐって実践し研究してきた。知的障害のある成人は依存的と考えられてきたために、従来は頭から無理だと決めつけられてきたことが多い。そういったことをやってみようとけしかける支援である。知的障害のある人たちが本人で運営する会 (self-advocacy group) に立ち上げから関わり、現在まで6年のあいだ支援を続けている。また、そこから派生してきた新聞づくりを支援している。自分たちの存在や生き方、希望などを新聞という媒体を通して社会に伝えようという試みである。新聞づくりはパソコンを使って編集しているが、それに伴って学生が知的障害のある人にコンピューターリテラシーの実践をするようになっている。 こうした試行錯誤とリンクする形で、2003年度から知的障害のある成人を対象とした公開講座を実施している。この公開講座は、「大学で自分の世界を広げよう〜知的障害をめぐる社会的課題解決に向けた本人と大学の知との協働〜」と題し、知的障害のある成人への生涯学習機会の提供、大学のあり方への課題提起、学生の教育といった3つの目的を設定した。2004年度は、知的障害のある成人20名余りを対象に、ライフヒストリーを言語、造形、音楽、書で表現するという実践をした。発達科学部や国際文化学部の教員 (末本誠先生、山本道子先生、勅使河原君江先生、田村文生先生、魚住和晃先生) に講師を依頼し、学習内容の支援を受けた。知的障害のある受講者にとって、それなりに新鮮な社会的経験の場になりえているが、何よりも学生が強い刺激を受けている。 → <http://www2.kobe-u.ac.jp/~zda/openuniv04.html> 知的障害のある成人の親や、作業所などの地域組織がさまざまに行っている試みとも、できるかぎり関わりをもつようにしてきている。こうした活動は、知的障害のある成人の支援という枠組みを超えて、むしろまちづくりと関連づける必要を感じている。現在、教員生命を賭けて (?) 取り組んでいる施設建設が、これまでやってきたさまざまな足掻きをある程度整理してくれるのではないかと期待している。 この施設は、灘区役所の移転に伴い、灘区と神戸大学の協定に基づいて2005年9月から運営する「あーち」という施設である。子育て支援を契機とした共生のまちづくりを支援する拠点施設というコンセプトに向けて、2004年度から組織化やプログラムのコーディネイトなどを行ってきた。知的障害のある人たちを含む、地域で支援を必要として生活している人たちの、受精してから死に至るまでの生涯にわたる生活や他者との関わりを実践的・協働的に研究していく。 → <http://www2.kobe-u.ac.jp/~zda/arch-prep.html> その他、社会貢献という枠組みに該当しそうな活動として、いくつかの自治体の委員や、地域の知的障害者施設の理事活動や助言、全国調査に基づいた日本のself-advocacy groupのイギリスでの紹介講演、日本の生涯学習事情に関する韓国での紹介講演、PTA関連の講演や助言などを行っている。 |