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感性研究事始め私は、企業の技術部門に10年ほど勤めたあと大学に転向した。最初は旧教養部で図学 (図法幾何学) を担当していたが、発達科学部の発足とともに造形表現論講座の一員に加わることになった。なぜかというと、私が専門としていた図学が立体や形を扱う領域であるということ、また私が芸術の諸ジャンルに興味があったからである。かくして造形表現論講座の一員となった私は、自己の研究の方向性に思いを巡らせた。私にとって芸術やデザインへの研究上の関わり方は3つしかない。みずから実践するか、あるいは一歩距離を置いて客体として研究するか、あるいは超人的にその両方を目指すかだ。とはいえ、私には音楽の習いごとの経験が多少ある程度で、実践するなどとはおこがましくて口が避けても言えない。両方など論外だ。だとすれば残るはただ一つ、研究対象としての芸術やデザインである。
当時、コンピュータや情報処理技術の進歩を背景として、さまざまな領域で芸術や感性を対象とした新たな研究が少しずつ行なわれ始めていた。このような状況のなか、関西学研都市に設立されたばかりのATR <http://www.atr.jp/> 知能映像通信研究所に勤める友人から、先端的なマルチメディア技術を駆使して感性豊かなイメージ表現を映像通信の分野において目指していきたいのだが協力してくれないかと声を掛けられた。この受託研究は、音楽や美術、舞踊などの感性表現メディアと感性の関係を工学的に取り扱うことができるような基礎的データを得るという目的で、1996年から5年間続けられた。この受託研究を契機として始まった感性研究は、その後も、多様なジャンルの芸術家や心理学者、工学者などを巻き込みながら、ユニークで刺激的なプロジェクト研究へと引き継がれて現在に至っているし、また私個人としても、デザインのイメージ戦略に関する民間企業との共同研究のなかにその成果が生かされている。また、私は、この4月から私の母屋である日本図学会の関西支部長となった。その初仕事として芸術科学会関西支部との共同セミナーを開催したのも、こういった取り組みの延長線上にある。 ところで、一連の受託研究 (感性研究) にわれわれとともに参加した大学院生たちは、そこで培った学際研究のノウハウや幅広い人的ネットワークをいかして、就職後の大学等でユニークな感性研究プロジェクトを次々と立ち上げている。これは、関西圏の豊富な文化・芸術資産の記録や研究に科学の力を総動員しようとする大きな流れと符合しあって、現在大きな注目を浴びているものも多い。関西という地にあって、その文化の研究にこのような形で積極的に関わり得る若手リーダーを育てて世に送り出しているのも、大きな社会貢献の一つだと叫んでもよいのではないだろうか。 |