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学生科学賞兵庫県コンクールの審査に携わって

蛯名 邦禎

私たちの日常生活の中で出会う便利なものの多くは、科学研究の成果に基づいています。また、私たちの知識のうちの多くのものが、科学研究によって明らかにされたものです。このような成果をもたらす科学は、研究者個人の知的好奇心や、あくなき探究心、あるいは、論理的な思考を徹底しようとする意欲などに支えられています。しかし、便利に満ち情報に溢れた現代社会では、知的好奇心、辛抱強い探究心、論理的な思考力など、科学を進める上で必要な資質を身につけることが困難になるというジレンマがあります。このようなジレンマに立ち向かうことは、現代の科学教育の一つの大きな課題です。

そんな中で、中学生や高校生が科学の自由研究を行い、それを発表する機会があることは大変貴重です。私が兵庫県コンクールの審査員を務める日本学生科学賞もその一つです。この科学賞は、読売新聞社、日本科学教育振興委員会、科学技術振興機構の主催によるもので、各県の地方大会で選ばれた科学研究作品が全国大会に出品されて審査され、優秀な研究には、総理大臣賞や文部科学大臣賞などが与えられます。入賞者の中から2-3組が、インテルが後援する国際科学技術フェア (ISEF) に推薦されることになっています。

私は、この地方大会の一つである兵庫県コンクールの審査委員を2003年度から務めています。10月中旬に行われるこの審査会では、県内の大学関係者や理科教育関係者などからなる10名ほどの審査委員が集まって、朝から夕方まで丸一日をかけて、中学生や高校生からの百点弱の発表 (ポスター展示など) を審査し、兵庫県知事賞や神戸市長賞などの入賞作品を決定します。

写真
展示を見て回る審査員。右から2人目が筆者
(提供・読売新聞社)

毎年この審査委員会を、私はとても楽しみにしています。特に日常生活で出合う、人のなかなか気づかない疑問を取り上げて、それを徹底的に解明しようとする研究に出会うと、とても嬉しくなります。問題を発見する鋭い着想と、疑問を徹底的に追究する執念が、審査委員たちに大きなインパクトを与えます。自分の中から湧き上がるアイディアに基づいて、また自分で十分に満足するまでとことん探究することこそ、科学を進める上で最も重要な資質なのです。

しかし、「科学賞」であるからには、確実性という観点から厳しくチェックすることも必要になります。例えば、主張の根拠が明確に示されているか、結論を導く議論が論理的にしっかりと構成されているか (対照実験の設定など)、実験や調査や計算が確かな方法と技術でなされているか、などの点です。こういった点は、学校での指導の効果が大きいかもしれません。さらに、このような研究の内容が、展示の形でどれだけ上手に (論理的に) 表現されているかも評価のポイントになります。それに加えて、その研究が科学的な知の体系の中でどう位置づけられるかが自覚されていれば大変素晴らしいのですが、これは中学生にはちょっとハードルが高いでしょうね。

以上のような観点で各審査委員が推薦する作品を、全審査委員で議論しながら見て回ります (写真)。これが一番楽しい時です。ただ、展示物を見るだけで、発表者の直接の説明を聞くことができないのが残念なところです。この楽しいひと時が過ぎると、入賞作品の決定という厳しく辛い作業が待ち構えています。各委員からのいろいろな提案に対して議論を尽くした上で最終的に審査委員全員の合意の上で入賞作品を決定します。

最後に、このコンクールへの希望を書いておきます。現在は、出品者同士の交流の機会がないので、その場があるとよいと思います。プロの研究者同士でも交流は非常に重要です。研究者の卵たちにとっても、このような交流によって得るところ大だと思います。また、若い大学院生などが、中学生や高校生の研究にアドバイスする機会もあるといいかもしれません。これまでのところ、中学生からの展示発表が圧倒的に多いのですが、高校生からの出品がもっと増えることを期待しています。

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